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大阪高等裁判所 平成元年(ネ)2125号 判決

控訴人(被告) エッソ石油株式会社

被控訴人(選定当事者原告) 入江史郎 外三名

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

二  控訴人は被控訴人らに対し、金二三三万〇一二〇円及びこれに対する昭和五八年三月二六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被控訴人らのその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は第一、二審を通じて一〇分し、その九を控訴人、その余を被控訴人らの各負担とする。

事実

第一申立て

一  控訴人

1  原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。

2  被控訴人らの請求を棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人ら

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二当事者の主張及び証拠関係

次のとおり付加するほかは、原判決の事実摘示及び当審記録中の書証目録に記載のとおりであるから、ここにこれを引用する(ただし、原判決三枚目表四行目冒頭の「で原告らの毎月の」を「での間、すなわち昭和五七年一〇月分から昭和五八年三月分までの被控訴人らの毎月二五日に支払われる」と改め、同五行目の「別紙」の次に「選定者の各」を、同七行目末尾の「交付した」の次に「(チェック・オフされた組合費の明細は別紙「組合員毎の月例組合費及び一時金組合費」のとおりである)」を、九枚目表三行目の「組合員」の次に「で」を、同八行目の「ス労自主」の次に「は」を、二〇枚目表一〇行目及び二一枚目表三行目の「味」の次に「鋺」を、同一行目の「桃山」の次に「一―七九 桃山」をそれぞれ加える)

一  控訴人

1(一)  被控訴人らは選定当事者であり、判決の効力は選定者らに及ぶのであるが、原判決の主文第一項によれば、控訴人は選定当事者全員に計二五八万二九三〇円とこれに対する遅延損害金を支払うべきこととされているにすぎないため、選定者ら各人に対しては、これを頭数で案分した金額が支払われることになると解するほかはない。ところが、原判決には、別紙「選定者の各損害額一覧表」が添付されていて、各人の損害額はこれによるというのであるから、本来選定者各人に対する支払いは右損害額一覧表記載の金額となるべきはずである。このように原判決には矛盾があり、そのため右主文では、判決の効力の及ぶ範囲を明確に確定することができない。

(二)  選定者らの選定書によれば、「第一審訴訟手続につき」被控訴人らを選定当事者に選定する旨記載されており、右選定の効力は第一審である原審の訴訟手続に限定されるべきものであるにもかかわらず、当審においては、被控訴人らが選定当事者に選定された旨の選定書が提出されていないので、被控訴人らは選定当事者としての地位にはない。

2  控訴人は、本件チェック・オフを停止することができない立場にあった。すなわち、

(一) 原審でも主張したとおり、控訴人とス労との間にはチェック・オフ協定が存在しており、その規範的効力により組合員は個別的にチェック・オフ停止を申し出ることはできない。

(二) 仮にこれが認められないとしても、チェック・オフの法律関係を、労働組合と組合員が使用者に対し、それぞれ組合費の取り立て及びその支払いを委任するとの考え方(支払委任説)に立てば、チェック・オフが労働組合の利益も目的とされている以上、労働組合の承諾なしに組合員の一方的意思のみで右委任を解約することはできないし、また組合員が労働組合に対し、組合費相当額の賃金の受領権限を授与するとの考え方(代理受領説)に立っても、チェック・オフは受任者である労働組合の利益を目的としている以上、同じく組合員が一方的に委任を解約することはできない。

(三) 仮に組合員の意思のみによりチェック・オフを停止することが許されるとの見解を採ったとしても、右意思に反してチェック・オフを継続したことが不法行為を構成するかはまた別の問題であり、控訴人には本件チェック・オフについてその責任はない。

なお、控訴人としては、後記事情があり、これが賃金の供託になるのか、組合費の供託になるのか、また債権者はス労か、ス労自主か、又はス労自主の組点員かさえも全く判断がつかず、供託をすることもできなかった。

3  本件チェック・オフについて控訴人には過失はない。本件で問題となっているチェック・オフが最初になされたのは昭和五七年一〇月二五日の給与支給日であるから、被控訴人らの本訴請求が是認されるためには、少なくともその時点で被控訴人らがス労を脱退したことを控訴人において了知できたことが必要である。しかし、被控訴人らはス労を脱退したものではないとの主張を繰り返しており、一方、ス労も被控訴人らから脱退届の提出を受けておらず、被控訴人らの脱退を否定していたのである(被控訴人入江の本人供述等及び乙第七号証参照)。このように、当時被控訴人らがス労を脱退したか否かについては、当事者の間でも混乱しており、もちろん外部からは明確な判断をすることができなかった。ス労の組合規約(乙第四三号証)では、ス労を脱退するには、理由を明記した脱退届の提出と中央執行委員長の承認が必要と定められているが、仮に脱退届の提出がないにもかかわらず脱退を認められる場合があり得るとしても、それは脱退届の提出に比肩すべきほどに脱退の事実が明確になっていることが条件となろう。また、右時点においては、ス労自主がいかなる組織であるか、その構成員、規約、役員等全く控訴人には分かっておらず、ス労からは被控訴人らの動きはス労内部の問題であり介入するなとの警告も受けており(乙第七号証)、ス労とス労自主がどのような関係にあるのかさえも控訴人には不明であった。ス労自主についての具体的な事情はその後に徐々に控訴人に明らかになってきたにすぎない。このような状況のもとで中立の立場にあるべき控訴人に被控訴人らの言い分が単にス労の分派活動の延長に当たるのか、又は新たな組合組織の結成に当たるのかの判断を求めるのはそもそも無理であった。これに対し、被控訴人らの側からこの困難を回避することは容易であったのに、前記のとおり被控訴人らはこの措置を採らなかったのであり、その責めを控訴人のみに負わせるのは不当である。

ちなみに、昭和四九年六月、エッソ・スタンダード労働組合が結成されたときに、控訴人がチェック・オフを停止したのは、組合費引去停止依頼があっただけでなく、ス労からの脱退の事実が明白であったためである(乙第四九号証)。

なお、昭和五七年一〇月当時、控訴人とス労との間には無断ビラ貼りに関する損害賠償請求事件を初めとして八件もの事件が裁判所及び労働委員会に係属し、また昭和五七年六月以降昭和五八年五月までの間、ス労は計四五回もストライキを行い、その間なされた団体交渉は三一回に及び、その他無断ビラ貼り計二七回、控訴人の役員宅への抗議行動計一九回など、控訴人とス労とは極度の緊張関係にあったのであり、本件チェック・オフについても控訴人がス労に対する不当労働行為にならないよう慎重に対処したのは当然のことであった。

4  被控訴人らは、その月の一五日までに申し出れば、当月分の給料からチェック・オフの開始、又は停止がなされることになっていたと主張するが、控訴人においては、給与調整項目の締切日はその月の一〇日とされており、したがって、一〇日までに右チェック・オフについての申し出があれば、当月分の給料から右申し出どおりの処理をすることができるが、一一日から一五日までの間に右申し出がなされたときは、処理手続が間に合わないことがあり、そのときには翌月分で調整することになっている。

二  被控訴人ら

1  控訴人主張1は争う。選定当事者の選定書に「第一審訴訟手続につき」と記載してあるのは、事件を特定するためにすぎず、選定の効力を第一審の訴訟手続に限定する趣旨ではない(最判昭五二年九月二二日判時八七三号三一頁参照)。

2  控訴人主張2、3はいずれも否認ないし争う。控訴人の主張は、被控訴人らがス労から脱退したか否かとそれを控訴人が認識し得たかを区別せずに論じている。被控訴人らがス労を脱退したことは客観的事実として明白であり、控訴人はこれを確定的に認識していたのであり、また少なくともこれを認識し得たことは明らかというべきである。

控訴人は、本件チェック・オフを停止しなかった理由として、ス労自主に加入した者が判然としなかったことを挙げているが(ただし、エッソ大阪支部と四国分会連合会については、下部組織の全員がス労自主に加入したことを認めている。控訴人平成二年八月一日付準備書面参照)、ス労自主結成通告書ないし加盟通告書(甲第二ないし第四号証、第七一号証の一ないし三参照)を受領し、かつ労務担当者らは右通告書受領時にス労自主側から口頭で説明も受けているのであり、新組合の加入者が分からないなどということはあり得ないし、正確を期す必要があるというのなら一言ス労自主側に聞けば直ちにこれは明らかになることであった。また、昭和五七年一一月五日には、ス労自主加入の各個人から「組合費引去停止依頼書」が控訴人に提出されたから、控訴人にはス労自主の組合員が明確に判明したはずであるが、控訴人は昭和五七年一一月以降も、再三の抗議にもかかわらず、本件チェック・オフを停止しなかった。これはス労自主加入者が判然としなかったからチェック・オフを停止できなかったとの控訴人の右主張が虚偽であることを示している。

なお、控訴人は、ス労と緊張関係にあったと主張するが、控訴人と緊張関係にあったのは、ス労のうち後日ス労自主となったグループとの間においてであり、また数多くの係争事件が係属していたのは控訴人が労働組合を敵視する政策をとってきたことの証左である。

3  賃金から組合費相当額を控除することができるのは、労働組合と使用者との間にチェック・オフ協定があるためではなく、各組合員の個別の承諾があるためであり、また各組合員はいつでもこれを撤回することができる。このことは、ス労の場合にも、組合員が控訴人に提出している組合費引去依頼書(甲第六九号証)に明記されているところである。

本件チェック・オフが許されないのは、被控訴人らがス労を脱退したためではなく、同人らが個別の右組合費引去依頼を撤回したことにある。

4  控訴人における賃金は毎月一日から月末までを一か月とし、毎月二五日に支払われており、組合費も同じく一日から月末までを一か月として、賃金支給日にその月分がチエツク・オフされている。そして、組合費のチェック・オフの開始ないし停止は、その月の一五日までにその旨を控訴人に申し入れると、その月分の賃金からチェック・オフが開始又は停止されることになっており(甲第六九号証参照)、月の途中で加入・脱退があっても日割計算はされない扱いである。

理由

一  当裁判所の判断は、次に付加、訂正、削除するほかは原判決の理由に説示するところと同一であるから、ここにこれを引用する。

1  原判決一一枚目表六行目末尾に続けて「(原審の記録によれば、選定者から提出されている選定書には、「控訴人との間の組合費相当分の金員横領による損害賠償請求事件に関する民事第一審訴訟手続につき」本訴の選定当事者である被控訴人らを民訴法四七条による訴訟追行者に選定するとの文言が記載されていることを認めることができるが、右被控訴人らは当審においても選定者らから選定された選定当事者としての立場で訴訟行為をしているのであり、このような事情のあることとも照らすと、右記載は単に選定当事者を選定する事件を特定したものにすぎず、選定の効力を第一審訴訟手続に限定する趣旨のものではなく、右選定の効力は本件訴訟が終了するまで継続すると解するのが相当である)」を加える。

2  同一一枚目裏六行目冒頭から一二枚目表六行目末尾までを「ところで、チェック・オフ協定(労働協約)が、右協約締結当事者である労働組合から使用者に対する組合費の取立委任の効力を持つことは当然であるが、チェック・オフは具体的に発生した労働者の賃金請求権の一部についての処分に当たるものであるから、これが労働組合員である労働者に対する関係で許されるためには、それが右労働者の意思に基づくことが必要であり、したがって、労働者がチェック・オフを拒否している場合、又はその承諾が撤回された場合など労働者がチェック・オフを拒否し、これを承諾していないときは、たとえ労働組合との間でチェック・オフ協定が成立していても、チェック・オフを拒否する右労働者に対するチェック・オフは許されないというほかはない(チェック・オフ協定が結ばれている労働組合に所属している組合員は、通常これを承諾し、また少なくとも黙示的には承諾をしているというべきであろう。ちなみに、前掲各証拠によれば、控訴人とス労の場合には、ス労所属の組合員は同組合に加入する際、同組合への加入届と同時に、使用者である控訴人に対しても、ス労の組合費相当額を給料(賞与等一時金を含む)から引去り、これをス労に交付すること、すなわちチェック・オフを依頼する旨の「組合費引去依頼書」を提出しており、しかも右書面には、チェック・オフ依頼を撤回するときには、その支払を停止しようとする月の一五日までに控訴人に対しその旨の書面を提出しなければならない旨の記載もなされていることが認められる)。

そこで、本件チェック・オフについてこれをみるに、ス労自主に属する支部・分会連合会が昭和五七年一〇月一二日、控訴人に対し、同月以降チェック・オフに係るス労組合費をス労に交付せず、右各支部・分会連合会が指定する銀行口座に入金するよう申し入れ、また同年一一月五日には、所属組合員作成に係る控訴人宛の組合費引去停止依頼書を添付した上で、同年一〇月二五日に支給された右組合員の賃金からス労組合費をチェック・オフしたことに抗議し、これを右指定する銀行口座に入金するよう申し入れをしたことは当事者間に争いがなく、この事実のほか、後記認定の各事情によれば、ス労自主が控訴人に対し同年一〇月一二日になした右申し入れは、控訴人がス労自主に所属する組合員の賃金から引去ったス労の組合費をス労に交付せず、ス労自主の指定口座に入金することを申し入れたものにすぎず、右抗議書にはス労自主の支部・分会連合会の名前はあっても、組合員個人の名前すら記載がなく、少なくとも右組合に所属する労働者からス労組合費のチェック・オフ依頼の撤回を申し入れたものとは認められないのであって、ス労自主に所属する組合員である被控訴人らから控訴人に対し右撤回の意思表示がなされたのは同年一一月五日であるというほかはない。なお、成立に争いのない甲第一〇号証(原本の存在も争いがない)、第七三号証の各一ないし五、第七四号証の一ないし二〇、第七五号証の一ないし九、第七七号証の一ないし六、乙第八六、八七号証によれば、右昭和五七年一一月五日付の「組合費引去りについて」と題する書面(抗議書)に添付されていたス労自主所属の組合員らの組合費引去停止依頼書は右書面に添付されていたものであるとはいえ、その文面からも明らかにス労組合費引去依頼の撤回の意思が表明されているのであり、これをス労自主からの抗議にすぎず、組合費引去依頼の撤回とみることができないとすることはできず、また、その作成日は同年一〇月一二日又は同月一四日と記載されているのであるが(ただし、原判決添付選定者目録に記載の選定者のうち、後潟、宮武の分については、日付の記載がない。また、右組合費引去停止依頼書には、作成者各人の署名又は押印がされている)、右書面が控訴人に提出されたのは右のとおり同年一一月五日であるから、遡って右撤回申し入れの効力が生じているとすることもできない。」と改める。

3  同一二枚目表七行目冒頭の「3」を「2」と、一三枚目裏八行目の「喪失した」から同一〇行目末尾までを「喪失しており、しかも前記認定のとおり、昭和五七年一一月五日には、被控訴人らはス労組合費引去依頼撤回の申し入れをしているのであるから、いずれにしても右時点以降に控訴人のした本件チェック・オフは違法であるといわなければならない。」とそれぞれ改め、一四枚目表三行目の「第一四」の次に「、一五」を加え、同五行目冒頭の「第五一」を「第五〇」と、同裏一行目の「第五八号証」を「第五九号証」と、同一二行目の「停止額」を「停止願」とそれぞれ改める。

4  一六枚目表四行目の「(被告の右」から同九行目の「得ない)」までを削除し、同一〇行目冒頭から一八枚目裏二行目末尾までを「確かに、前記認定の事実関係からすれば、控訴人の主張にも一理あるように見える。しかし、控訴人の言い分は、結局、被控訴人らがス労から脱退し、ス労自主を結成したものであることを認識することができなかったというに尽きるのであり、前記判示のとおり、チェック・オフが許されるのは、労働組合とのチェック・オフ協定によるのではなく、労働組合に所属している各労働者の意思に基づくものであるとする以上、少なくとも被控訴人らからチェック・オフ依頼の撤回の申し入れがなされた以降は控訴人はチェック・オフを継続することはできず、このことは組合費引去依頼書にその撤回と組合費支払停止の記載がある点からしても控訴人において了知していたものというべきであり、前記認定によれば、被控訴人らが控訴人に対し右撤回の申し入れをしたのは昭和五七年一一月五日であるというのであるから、控訴人のした同月二五日に支給された同月分以降の賃金(賞与等一時金を含む)からの本件チェック・オフは被控訴人らの賃金債権を侵害しており、不法行為責任を免れないというべきである。」と、同五行目の「原告らは」から同七行目末尾までを「前記認定のとおり、被控訴人ら請求額のうち昭和五七年一〇月二五日に支給された賃金から引去った分(別紙「組合員毎の月例組合費及び一時金組合費」のうち月例組合費欄に記載の額)を除いた額、すなわち、別紙「選定者の各損害認定額一覧表」記載の金額、合計二三三万〇一二〇円が控訴人の右不法行為により被控訴人らが被った損害となる。」と、一九枚目表二行目の「昭和五七年」を「昭和六〇年」とそれぞれ改め、同四行目の「明白」の前に「記録上」を加える。

二  以上の次第であって、控訴人は被控訴人らに対し、二三三万〇一二〇円及びこれに対する前記不法行為の後の日である昭和五八年三月二六日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。

よって、被控訴人らの本訴請求は、右認定の限度で理由があり、その余は失当として棄却すべきであるところ、これと異なる原判決は右異なる限度で不当であるから、これを右のとおり変更し(なお、控訴人は、原判決主文第一項のような形式の主文では、選定者らに対する判決の効力の及ぶ範囲が不明確であると主張するが、控訴人の不法行為により選定者らの被った損害額は別紙「選定者の各損害認定額一覧表」に記載のとおりであり、本判決主文第二項記載の金額はその合計額であるから、選定者ら各人に対し右判決の効力の及ぶ範囲は右損害認定額一覧表に記載の金額についてであるというべきであり、控訴人の右主張は採るを得ない)、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条、九二条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 石川恭 福富昌昭 竹中邦夫)

別紙「組合員毎の月例組合費及び一時金組合費」省略

選定者の各損害認定額一覧表(単位は円)

1  長谷川ユキ 60,930

2  山川博康  95,280

3  中西敏勝  93,690

4  中村和憲  71,080

5  増田民男  67,210

6  池田晃一  90,670

7  糟谷一郎  81,700

8  坂尾和夫  86,870

9  河合勝   78,300

10 小島孝一  67,390

11 田川久男  75,350

12 藤野千秋  74,410

13 田村秀夫  65,330

14 高橋国光  67,860

15 羽柴勲   74,170

16 東進    83,390

17 松平義光  69,380

18 松平博   73,880

19 中村勇   70,230

20 中島漠   70,820

21 西塚美千子 58,830

22 佐藤恵子  57,690

23 入江史郎  75,620

24 上村敏行  62,160

25 後潟勝   73,830

26 宮武義輝  72,760

27 牛尾健次  76,140

28 松田隆三  95,940

29 柴山良朗  79,050

30 竹内清   78,970

31 門永征二  81,150

合計    2,330,120

参照

原審判決の主文、事実及び理由

主文

一 被告は原告らに対し、金二五八万二九三〇円及びこれに対する昭和五八年三月二六日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三 訴訟費用は被告の負担とする。

四 この判決は原告らの勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一 請求の趣旨

1 被告は原告らに対し、金二五八万二九三〇円及びこれに対する昭和五八年三月二六日から完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

3 仮執行宣言

二 請求の趣旨に対する答弁

1 原告らの請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一 請求原因

1(一) 原告らは別紙選定者目録記載の選定者らによって選定当事者に選定された(以下、原告らと選定者らを「原告ら」という)。

(二) 原告らは被告の従業員であり、かつて被告従業員の一部が加盟するスタンダード・ヴァキューム石油労働組合(以下「ス労」という)の組合員であったが、昭和五七年九月二五日スタンダード・ヴァキューム石油自主労働組合(以下「ス労自主」という)を結成し、同年一〇月一四日までにス労組合員たる地位を喪失した。

2 被告は同年一〇月二五日から同五八年三月二五日まで原告らの毎月の賃金及び同五七年一一月支給の一時金から別紙損害額一覧表記載のとおりス労組合費をチェック・オフ(以下「本件チェック・オフ」という)し、ス労に交付した。

3 本件チェック・オフは違法である。

(一) 被告が従来行ってきたス労組合費のチェック・オフはス労との間のチェック・オフ協定によるものではなく同組合員個別の依頼によるものであったが、後記のとおり、原告らはス労自主に加盟直後被告に対しェッツク・オフ停止を求めた。

したがって、被告は本件チェック・オフをすることはできない。

(二) ス労と被告間にチェック・オフ協定があったとしても、ス労は漸次労働組合の実質を喪失し、同五七年九月二五日ス労自主の結成により消滅し、同日チェック・オフ協定は失効した。したがって、被告はス労、ス労自主を問わず組合費をチェック・オフすることはできない。

(三) ス労と被告間のチェック・オフ協定が存続しているとしても、前記のとおり、原告らは同年一〇月一四日までにス労組合員たる地位を喪失したから、爾後右協定の適用を受けない。

4 被告は3(一)ないし(三)の事実を知りながら、或いは知り得べき状況にありながら、ス労自主及び原告らス労自主組合員に対する不当労働行為目的のもとに本件チェック・オフを継続した。

(一) ス労自主結成後、ス労自主に属することを決した、京浜支部連合会を除くス労傘下の支部、分会連は同月一二日被告に対し、組合費引去り依頼変更の件と題する書面により、同月以降チェック・オフに係るス労組合費を各支部、分会連が指定する銀行口座に入金するよう申入れていた。

(二) ス労自主及び同傘下の支部、分会連は被告に対し、同年一〇月一四日書面により、組合結成通知及びス労自主加盟通知をすると共に中央執行委員長名で団体交渉申入れをなし、同月一八日中央執行委員長名の書面により本部役員名を通知した。

(三) ス労自主は同月二〇日、同月二二日、同月二九日被告に対し、中央執行委員長名の書面により、被告がス労自主の団交申入れ及び(一)の申入れを無視、放置していることに抗議した。

(四) ス労自主支部、分会連は同年一一月五日被告に対し、所属組合員作成に係る被告宛の組合費引去停止依頼書を添付した組合費引去りについてと題する書面により、被告が同年一〇月二五日右組合員らの賃金からス労組合費をチェック・オフしたことに抗議し、右組合費を指定する銀行口座に入金するよう申入れた。

(五) ス労自主は被告に対し、同年一一月一〇日所属の組合員からするチェック・オフ組合費の振込先変更依頼をなし、同年一二月一三日被告が一一月分のチェック・オフにつき右申入れを無視したことに抗議した。

(六) ス労自主は同年一二月一五日被告に対し、所属組合員の署名のある団結署名書を添付した中央執行委員長名の書面により、被告がス労自主の団交申入れを無視し、右組合員からス労組合費のチェック・オフを続けていることに抗議した。

(七) ス労自主は同五八年一月一四日被告に対し、所属組合員の署名のある抗議署名書を添付した中央執行委員長ら本部役員連名の書面により、同旨の抗議をし、被告が同五七年一〇月以降チェック・オフしたス労組合費の返還を求めた。ス労自主はその後も被告に対し同様の抗議、申入れを繰返した。

(八) ス労自主は結成後何回も全国大会を開催し、また同五七年一二月二日を初めとして同五八年三月まで数回に亘り被告に対しストライキを通告し実施した。

(九) 被告は、原告らがス労を離脱してス労自主を結成し独自の組合活動を展開していることを熟知していた。

5 本件チェック・オフが原告らに対する不法行為であることは3、4の事実に照らし明白である。

原告らは本件チェック・オフにより前記一覧表記載のとおり合計二五八万二九三〇円の損害を蒙った。

6 よって、原告らは被告に対し不法行為による損害賠償として金二五八万二九三〇円及びこれに対する最終不法行為日の翌日である同五八年三月二六日から完済まで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二 請求原因に対する認否と主張

1(一) 請求原因1(一)の事実は否認する。

(二) 同(二)の事実のうち、原告入江史郎、同糟谷一郎、選定者中西敏勝、同西塚美千子、同上村敏行を除く原告らが被告の従業員であり、かつてス労に属し、現在ス労自主に属していることは認めるが、ス労自主の結成日及び原告らがス労組合員の地位を失ったことは知らない。

被告は同五九年七月二五日右原告入江ら五名を懲戒解雇した。

2 同2は認める。

3 同3冒頭の主張は争う。

(一) 同(一)の事実は否認する。被告はス労との間でチェック・オフ協定を結んでいる。被告は原告らからチェック・オフ停止の要求を受けたことなく、チェック・オフした組合費の振込先の変更依頼を受けたにすぎない。

(二) 同(二)の事実は否認する。ス労は被告がス労自主結成通知を受けた後も存続し、被告との間のチェック・オフ協定も有効に存続している。

(三) 同(三)の事実のうち、原告らが同年一〇月一四日までにス労組合員の地位を失ったことは不知、その余は争う。

4 同4冒頭の事実は否認する。

(一) 同(一)ないし(八)の事実は認める。

但し、前記のとおり、原告ら及びス労自主は被告に対し組合費のチェック・オフ自体の停止を求めたことはなく、チェック・オフした組合費の振込先変更を依頼していたにすぎない。また、後記のとおり、被告はス労自主の各申入れを無視、放置していたのではなく、原告らのス労脱退の有無及びス労自主の関係を知るため、両組合や原告ら商人に対し照会を繰返したが終始的確な回答が得られず、対応に苦慮していた。

(二) 同(九)の事実は否認する。

5 同5の事実は否認する。

6 主張

(一) 被告は、同五八年四月に至るまで、原告らがス労組合員たる地位を失ったことを確知できなかったため、原告らをス労組合員として扱い、ス労とのチェック・オフ協定に基づき本件チェック・オフをした。

ス労は被告がス労自主結成通知を受けた後も存続し、チェック・オフ協定も有効に存続していることは前記のとおりであり、仮に、組合員個人からチェック・オフ停止の申出があっても、被告において、右チェック・オフ協定に反し、直ちに組合費のチェック・オフを停止することはできない。

(二) 被告が原告らをス労組合員として扱い本件チェック・オフをしたことは正当であり、何ら非難される理由はない。

(1) ス労においては同五七年ころから内部抗争が激化していた。被告は、同年一〇月一二日ス労エッソ大阪支部執行委員長上村敏行名の書面により、チェック・オフに係る同支部所属の組合員の組合費の振込先変更依頼を受け、同月一四日ス労自主中央執行委員長糟谷一郎代理人入江史郎名義のス労自主結成通知書を受取った。ス労自主名義の書面には原告らを含む三六名が名を連ねていた。引続き、被告は同月一五日ス労本部から、同日現在組合員から脱退届の提出はなく、右組合費の振込先変更依頼及びス労自主結成通知は一部組合員の動きにすぎずス労の容認するところではないから被告においてこれらの動きに援助を与えないようにとの申入書を受取った。

(2) そこで、被告は同月二〇日及び二七日の両日、未だス労自主を組合として認め得る状況になかったため、ス労自主中央執行委員長と称する原告糟谷一郎個人に対しス労脱退の有無を問合わせたが回答を拒否された。他方、被告はス労に対しても再三右三六名のス労脱退の有無を照会していたが、同年一一月二六日回答を拒否された。次いで、被告は同月三〇日付で右三六名に対し個別にス労脱退の有無を問合わせたが回答は得られなかった。

(3) ス労は被告に対し、同年一二月二三日及び翌年一月三一日行われた団体交渉の席上で右三六名がス労組合員であることを確認し、また、同年三月八日付賃上げ要求書提出時においても右三六名がス労組合員であることを確認した。また、ス労は大阪府地方労働委員会に対しても同年二月八日付文書で、ス労自主組合員なる者の脱退及び除名はないと申述した。

(4) ス労自主は、一方では、ス労は死滅したと主張し、他方では、ス労自主ス労内において合法的に結成した組織であるとか、ス労の名称変更であるとか、ス労自主支部等はス労自主とス労に二重加盟している等と主張していた。

(5) もとより、被告は組合に対する内部不干渉を是としており、ス労及びス労自主の何れの主張を正しいとするものではない。しかし、ス労自主の主張は混乱しているうえ、その法的意義は被告の理解を超えるものであった。このような経緯のもとで、被告において原告らがス労組合員たる地位を失ったと判断することは不可能であり、軽々に原告らからのチェック・オフを停止することはス労に対し協定違反を犯す危険があり、慎重に対処せざるを得なかった。

(6) ス労自主は同年三月二五日被告に対し、前記労働委員会が同月一〇日行ったス労自主の労働組合資格審査決定の決定書写しを提出した。また、ス労自主が同年四月一日被告に提出した抗議及び団体交渉要求書には前記三六名の委任状が添付されていた。かくて、被告は事情を総合判断し、同月五日ス労自主との間で正式に労使関係を持つことに決し、同月から原告らス労自主組合員に対する組合費のチェック・オフを中止した。

(7) したがって、被告が原告らをス労組合員として扱い本件チェック・オフをしたことに何ら責められる点はない。

三 抗弁

1 原告らの本訴請求債権は、実質上不払賃金の支払を求めるものであるから、労働基準法一一五条の適用により、同五七年一〇月二五日から同五八年三月二五日までの各賃金支払日から二年を経過したことにより時効消滅した。

2 然らずとしても、原告らの本訴請求債権のうち、同五七年一〇月二五日、同一一月二五日分は各同日から三年を経過したから、民法七二四条により時効消滅した。

3 被告は本訴において右消滅時効を援用した。

四 抗弁に対する認否

抗弁1、2は争う。

五 再抗弁

原告らは被告に対し、同六〇年一〇月一四日到達の書面により本件請求をし、同年一二月九日本訴を提起したから、時効は中断した。

六 再抗弁に対する認否

争う

第三証拠〈省略〉

理由

一 本件訴状添付の選定書及び原告入江史郎本人尋問の結果によると、請求原因1(一)の事実が認められる。

二 請求原因1(二)の事実のうち、原告らは被告の従業員であり(但し、被告は昭和五九年七月二五日原告入江、同糟谷、選定者中西、同西塚、同上村に対し懲戒解雇の意思表示をした)、ス労組合員であったこと及び同2の事実(本件チェック・オフ)は当事者間に争いがない。

三 本件チェック・オフの違法性

1 成立に争いのない甲第六九号証、乙第一、第四三号証、証人奥野実の証言、原告入江本人尋問の結果、弁論の全趣旨によると、被告は、ス労との間で労働協約七六条二項、三項に基づくチェック・オフ協定を締結し、右チェック・オフ協定に基づき本件チェック・オフを行ったと認められ、右認定に反する証拠はない。

ス労組合員各個が被告に提出している組合費引去依頼書(甲第六九号証)は右チェック・オフ協定を確認する趣旨のものであり、組合員個別の引去依頼の撤回によって直ちに右チェック・オフ協定が失効し、チェック・オフが許されなくなるとは解されない。したがって、原告らの請求原因3(一)の主張はその余の点につき判断するまでもなく理由がない。

2 成立に争いのない乙第二三号証、証人奥野の証言によって真正に成立したと認められる同第五一ないし第五三号証、第五五、第五六号証、同証言によると、ス労は、後記ス労自主結成後も、組織的同一性を保持し労働組合活動を続けており、右チェック・オフ協定も有効に存続していると認められるから、原告らの同(二)の主張はその余の点について判断するまでもなく理由がない。

3 原告らのス労自主結成とス労脱退

当事者間に争いのない請求原因4(一)ないし(八)の事実、成立に争いのない甲第二ないし第九号証、第一四号証の一ないし三、第一五、第一七号証、乙第五、第六、第一五号証、第一六号証の二、第三六、第四三号証(一部は原本の存在を含む)、弁論の全趣旨によって真正に成立したと認められる甲第六一、第六二号証、証人奥野の証言によって真正に成立したと認められる乙第七号証、同証言、原告入江本人尋問の結果、弁論の全趣旨によると、原告らはス労組合員であったが、執行部と闘争方針の相違から激しく対立するようになり、同五七年九月二五日ス労自主を結成し、同年一〇月一四日までに全員がス労自主に加盟し、被告に通告したこと、原告らはス労自主結成後、ス労と全く無関係にス労自主独自の組合運動を展開したこと、大阪府地方労働委員会は同五八年三月九日ス労自主の労働組合資格審査決定を行ったこと、ス労組合規約八条は脱退は理由を明記した脱退届の提出と中央執行委員長の承認を要する旨定めているが、原告らはス労自主結成にあたりス労に対し脱退届を提出しなかったこと、ス労執行部はいち早くス労自主結成と原告らの加盟を知ったが、ス労自主の結成を容認せず、ス労内部の一部の策動と把え、被告に対しス労自主を組合として遇さないよう申入れたが、内部的には同年一二月四日、五日開催された臨時全国大会において、ス労自主組合員の権利停止をする旨の機関決定をしたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

ところで、ス労組合規約八条は脱退の意思表示は書面によるべきこととする限度で有効であるが、書面によらない黙示の意思表示であっても、新組合の結成と独自の組合活動等の客観的事情から組合員の脱退意思が明確に看取し得る場合には脱退の効力を否定することはできないと解される。

右認定、説示によると、原告らは、同五七年一〇月一四日までにス労を集団的に離脱のうえス労自主を結成加盟し、その旨を被告に宣明し、爾後ス労の統制に服することなく独自の組合運動を行い、ス労執行部もこれを熟知していたのであるから、原告らは同日までに書面によらない黙示の意思表示によってス労を脱退したものと認めるのが相当である。

そうすると、原告らは全員同日までにス労組合員の地位を喪失したのであるから、被告がス労とのチェック・オフ協定に基づき行った本件チェック・オフは違法であるといわなければならない。

四 被告の責任

1 (一) 請求原因4(一)ないし(八)の事実は当事者間に争いがない。

そして、前記乙第七号証、成立に争いのない乙第四ないし第六号証、第八号証の一、第九ないし第一一号証、第一四号証、証人奥野の証言及び弁論の全趣旨によって真正に成立したと認められる乙第五一ないし第五三号証、弁論の全趣旨によると、被告の主張6(二)(1)ないし(3)の事実が、成立に争いのない乙第二〇ないし第二二、第二四、第三五ないし第三八、第四一、第四四、第六一号証によると、同(4)の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

(二) 成立に争いのない甲第五八ないし第六〇号証(原本の存在を含む)、乙第四九号証、証人奥野の証言及び弁論の全趣旨によって真正に成立したと認められる乙第五八号証の一、二、同証言、原告入江本人尋問の結果によると、次の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

(1) 被告において、同四九年六月二八日、一部ス労組合員によってエッソ・スタンダード労働組合(以下「エ労」という)が結成された。エ労は同日被告に対し組合結成通知及び団体交渉等の申入れをした。被告は同年七月一日エ労と第一回団体交渉をした。

(2) エ労は同月九日被告に対し、同組合員はス労を集団的に脱退した旨を告げ、所属組合員の組合費引去り停止額を添え、ス労組合費のチェック・オフ停止を申出た。被告は右申出を受け、同月一〇日ス労に対し右チェック・オフ停止を通告した。

(3) ス労は、同年六月二九日付けの機関紙でス労脱退者がでた旨報じたが、同年七月一二日被告に対し、エ労組合員の脱退届を未だ受理していないとして、右チェック・オフの継続を求めた。しかし、被告は、エ労組合員から集団的な組合費引去り停止要請があったことを理由にス労の要求を拒否し、同月分以降右チェック・オフを停止した。

(三) 弁論の全趣旨によって真正に成立したと認められる甲第五二ないし第五四号証、第五七号証によると、訴外モービル石油株式会社においても、ス労自主は同五七年一〇月からス労組合費のチェック・オフ停止を求めたところ、同会社は、ス労自主組合員がス労を脱退したか否か判然としないとの理由でス労自主の要求は拒否したが、同年一一月から同五八年三月までス労自主組合員からチェック・オフしたス労組合費はス労に交付せず同会社が保管し、同年七月同組合員に返還したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

2 被告は、原告らがス労組合員たる地位を失ったことの確知ができなかったため、即ち、原告らからス労自主の結成通知及びチェック・オフ組合費の振込先変更依頼(チェック・オフ停止依頼ではない)を受けたが、ス労は原告らス労自主組合員の脱退を否定し、ス労自主もス労脱退の事実を明らかにせず、ス労との関係について混乱した主張を繰返していたためその実体が把握できず、原告らがス労組合員たる地位を失ったと断定できなかったため、止むなく原告らをス労組合員として遇し本件チェック・オフをしたのであるから、被告には何ら責められる点はないと主張する(被告の右主張は、被告において原告らがス労組合員たる地位を失ったかも知れないとの認識を有していたことを意味するものであり、その限りにおいて原告らに対する不法行為成立の可能性を認識していたものといわざるを得ない)。

しかしながら、原告らス労自主組合員が被告に対しチェック・オフ組合費の振込先の変更依頼をしたことは、その法的当否はともかく、ス労自主がス労と別組織であり、原告らが最早ス労に属さないことを明らかにするものであるし、原本の存在及び成立に争いのない甲第一〇号証の一ないし五、乙第一二号証の一、二(但し、書込部分を除く)によると、ス労自主の被告に対する同五七年一一月五日付組合費引去りについてと題する書面にはエ労の場合と同様所属組合員個別の組合費引去停止依頼書が添付されていること、原本の存在及び成立に争いのない甲第一二号証によると、ス労自主の被告に対する同年一二月一三日付抗議書にはス労自主組合員はス労に属していないことを明記してあることが認められ、一方、弁論の全趣旨によって真正に成立したと認められる乙第二五号証によると、被告は同年一〇月二九日当時既にス労自主とス労は別組織であるとの認識を有し、また、原本の存在および成立に争いのない甲第一八号証、証人奥野の証言によると、被告は右時点において原告らがス労を脱退したと判断すべき基礎事実の重要部分を認識していたことが認められる。而して、前記甲第一八号証、証人奥野の証言、弁論の全趣旨によると、被告が本件チェック・オフを継続した根拠はス労自主及び所属組合員から被告に対してス労を脱退したとの申告がなかったことに尽きるのであって、右申告があれば、被告は脱退の有無、成否、ス労の意向を問わずチェック・オフを停止したであろうことが認められ、被告の右対応は前記エ労発足の際の取扱と軌を一にするのである。

ス労自主の行った同組合の成立及びス労との関係についての混乱した主張は、前記のス労自主結成後のス労自主とス労それぞれの組合活動に照らせば、ス労自主の正当性を訴えるための強弁或いは弁解にすぎないことが容易に窺えるのであり、特に被告の判断や対応を困惑させる程のものではない。

してみると、前記のとおり、原告らは同五七年一〇月一四日までに書面によらない黙示の意思表示によってス労を脱退のうえス労自主を結成加盟し、ス労組合員の地位を喪失したと認められるのであり、当事者間に争いがない請求原因4(一)ないし(八)の事実及び右説示によると、被告は原告らの右実体を了知し得べき状況にあったというべきであるから、被告がス労自主及び原告らからス労脱退の申告がないという形式的理由に拘って本件チェック・オフを継続したことを正当とは認め難い。

被告は本件チェック・オフの停止はス労に対する協定違反を犯す危険があったと主張するが、被告においてはス労自主及び所属組合員からス労脱退の申告があれば脱退の有無、成否、ス労の意向を問わずチェック・オフを停止するのであるから、ス労に対する協定違反の危険という点で彼此大差はなく、被告が格別ス労との関係について配慮していたと認めることはできない。

被告の対応は、前記訴外モービル石油株式会社のとった措置(但し、同会社の行ったチェック・オフそれ自体の不法行為性はさて置く)と対比すると、慎重であったというより強硬にすぎたと評すべきである。

3 以上の認定、説示によると、被告は本件チェック・オフを行ったことにつき少なくとも過失による不法行為責任を免れない。

五 原告らの損害

請求原因2の事実は当事者間に争いがない。したがって、原告らは被告の本件不法行為により別紙損害額一覧表記載のとおり合計二五八万二九三〇円の損害を蒙ったと認められる。

六 消滅時効

1 被告は労働基準法一一五条の適用を主張するが、原告らの本訴は不法行為に基づく損害賠償請求であるから、同条の適用があるとは解されない。したがって、被告の抗弁1は失当である。

2 原本の存在及び成立に争いのない甲第一六号証の一、成立に争いのない同号証の二によると、原告らは被告に対し同五七年一〇月一四日到達の書面により本件請求債権の支払を求めたことが認められ、本訴は同年一二月九日提起されたことは明白であるから、被告主張の民法七二四条の時効は中断した。したがって、被告の抗弁2は採用できない。

七 以上の説示によると、被告は原告らに対し金二五八万二九三〇円及びこれに対する同五八年三月二六日から完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を支払うべきである。原告らは商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求めるが失当である。

よって、民訴法八九条、九二条但書、一九六条一項にしたがい、主文のとおり判決する。

選定者目録〈省略〉

選定者の各損害額一覧表

1  長谷川ユキ 金六七、七四〇円

2  山川博康  金一〇五、五五〇円

3  中西敏勝  金一〇三、八一〇円

4  中村和憲  金七八、九五〇円

5  増田民男  金七四、七五〇円

6  池田晃一  金一〇〇、五三〇円

7  糟谷一郎  金九〇、七五〇円

8  坂尾和夫  金九六、一八〇円

9  河合勝   金八六、七二〇円

10 小島孝一  金七四、八二〇円

11 田川久男  金八三、五一〇円

12 藤野千秋  金八二、五〇〇円

13 田村秀夫  金七二、五一〇円

14 高橋国光  金七五、二六〇円

15 羽柴勲   金八二、〇七〇円

16 東進    金九二、二一〇円

17 松平義光  金七六、八〇〇円

18 松平博   金八一、七五〇円

19 中村勇   金七七、七四〇円

20 中島漠   金七八、三八〇円

21 西塚美千子 金六五、四七〇円

22 佐藤恵子  金六三、九九〇円

23 入江史郎  金八四、〇八〇円

24 上村敏行  金六九、二一〇円

25 後潟勝   金八一、八一〇円

26 宮武義輝  金八〇、六〇〇円

27 牛尾健次  金八四、三八〇円

28 松田隆三  金一〇六、〇六〇円

29 柴山良朗  金八七、四九〇円

30 竹内清   金八七、四六〇円

31 門永征二  金八九、八五〇円

合計       金二五八万二九三〇円

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